「あなたの聴き方を変えるジャズ史」村井康司著 シンコーミュージック

明けましておめでとうございます。
 
今年もよろしくお願いいたします。
 
さて、あいさつはそこそこにして、年末年始の長い休みといえば(去年の年末年始は
そういえば元旦以外はバイトしてたな(涙))決まって溜まりにたまった書籍をこなしていく
というのが毎年の恒例なのです。
 
僕が本に集中できるのが電車での移動時間なんですが、普段電車に乗らないものでね。
 
親が住んでいる那須塩原に電車移動する時間がなかなかに貴重で、
 
本を読むためにわざわざ時間かけて各駅停車で行くというのが最近のパターンになって
おります。
 
ここから乗り換えうまくいかないと片道4時間くらいかかるので、一冊読むには丁度良いくらい
なのですよ。
 
 
今回の旅の友は10月に購入して全く手つかずだったこの本。

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平たく言えば「目線を変えたジャズ通史」みたいな本です。
 
 
僕自身、ジャズが好きかといえばなんて言えばいいのかなぁ。
 
古いジャズは好きなんですね。もともとのきっかけは「ダンスミュージック」としてのジャズ
だったのでね。
 
あとは「小唄」ですね。
 
大衆音楽としてのジャズは未だに好きです。というか一番好きな音楽かもしれません。
 
苦手なのは大衆性から自己表現の場として変化していった、いわゆるモダン・ジャズと
いわれているのがダメだったんですよね。
 
 
 

でも、そういう音楽から影響を受けて違うスタイルで演奏して、そういうものも好きだったり
するので、いつかはちゃんと対峙しないといけないよなぁ、って思い始めて早25年くらい(笑)。
 
僕の大好きなスカは「ダンス」という大衆性を維持しながら、まぁ管楽器奏者に限り
自己表現性もあるということで僕の「ジャズ」なんでありますけどね(バップまでの表現方法
だけど)。
 
 
 
 
 
結論から言うと、この本はそういう垣根をなんか解いてくれた気がします。
 
だって今、エリック・ドルフィー聴きながら書いてますから(笑)。
 
違和感ないわ。びっくりするくらいに。
 
あんなに拒絶反応示してたのにね、10年前には。
 
 
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この著者、僕はよく存じ上げない方でしたが、いろんな音楽のジャンルをちゃんと体系的に
聴いている方だなと思いました。
 
 
そしてその民族や時代背景もしっかり考慮して構成しているので非常に僕としたら
わかりやすかったです。
 
「ジャズ」という音楽の成り立ちをそこだけ特化せずに、結果的にミクスチャーの最大の
実験国であった「アメリカ」の成り立ちを踏まえ、他の音楽と並列に語る点は自分の
とらえ方と近いものがあって、僕なりに随分整理できてすっきりしました。
 
 
例えば、ジャズ発祥の地、ニュー・オーリンズを「アメリカ最南部の都市」と捉えるのではなく、
カリブ海を中心としてみれば「最北端のアメリカへの入り口」であるということ。
 
 
この辺は「狭義のジャズ」としてのとらえ方しかしていなかった方々には目から鱗かも
しれません。
 
 
そしてロックン・ロール誕生とジャズが変化しながら形になっていくことを同じ熱量で
語ってくれるのは本当にありがたかったですね(ありがたい??)。
 
そして音楽というものを形成する上で絶対忘れてはいけない技術の変遷にもちゃんと
言及しています。
 
例えば録音機材の変化とか、ラジオ~テレビ~インターネットというメディアの変遷とか。
 
その時代が持つ社会性とか。
 
音楽ってそういうものに絶対支配されてますのでね。
 
この本で書かれてたフランク・シナトラエルヴィス・プレスリーの社会的立場の関連性なんて
他の書物では読んだことありませんでした。その通り。
 
僕自身、「ああ、そうなのか!!」っていう発見もたくさんありました。
 
あんましネタバラシはしたくないですが(笑)いくつか言っちゃいます。
 
名盤、ソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサム」の一曲目「セント・トーマス」
 
これ、大好きなんですけどね。僕の中ではカリプソのアルバムなんですけど(笑)。
 
あれでドラム叩いてるマックス・ローチという人は実はハイチの伝説的パーカッショニスト
チローロに師事を仰いでたって初めて知ったし。
 
10世紀前後に今のスペイン、北アフリカイスラム教徒が制圧し、その音楽的影響も甚大で、
それが辺境に伝播し(西アフリカやアイルランド)形が残った上で新大陸アメリカに上陸し、
アパラチア山脈で何百年ぶりに交流してマウンテン・ミュージックが生まれた・・・
 
 
すげー、全部言ってる通りじゃん!!と電車の中で唸ってしまいました(笑)。
物凄くわかりやすい。
 
「アンソロジー・オブ・アメリカン・ミュージック」とか聴いたことがある人は黒人=ブルース、
白人=カントリーという図式がもはや意味のないことだというのは理解されてるとは思いますが
、そこにイスラムが入ってくると全部が納得できるし、
 
モダン・ジャズの理論のひとつ「モード」がそこへの回帰と書かれたらそれも
すごく理解できてしまいます。
 
 
いわゆる「揺れ」のことなんですけどね。コードというものに縛られない表現方法。
 
まさに無伴奏やドローンしか鳴ってないアイリッシュやガーナなんかの音楽を聴くと
それがよくわかります。
 
 
そういうの提示されたら、モダン・ジャズへの偏見(よくわかんないから聴かない)というのが
一気に崩壊しました(笑)。
 
 
で、ついついモードを知りたくて今は変なサイトばっかり見てちょいとは理解しようかな、
なんてやってます。「ドリアンスケール」とか今まで生きてきて初めてギターでやってみたもんね
。気持ちいいけど自分のキャラじゃないというのもよく分かったし。
 
「モードチャート」みたいなのも面白い。視覚的にスケールを理解するやつ。
 
なんだ。
 
モダン・ジャズって面白いじゃん(笑)。
 
 
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代理コードの捉え方とか、モードの概念とか
 
 
こういうのに僕が20代で気がついたら「プレイヤー」としてもっと違うアプローチが
できたんでしょうね。
 
 
いまさらながらワクワクしますもんね。表現者として。
 
 
細々ながら楽器弾いてますが。
 
やっぱりまだ上手くなりたいんだよね。いろんな引き出しを作っていきたいしね。
 
 
だからこの歳になってのモダン・ジャズとの出会いは面白い。
 
俺の尊敬するTEX-MEXアコの奏者、エスティバン・ホルダンなんてそういう音楽ばっかり
聴いてた音の選び方してるしね。
 
いやー
 
音楽って楽しいね。
 
久しぶりにグッときた本を読みました。
 
 
僕の周りにいる音楽仲間には是非読んでもらいたい書物です。
 
 
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でも、素人の私からみても「つっこみ」を入れたい部分はたくさんあるんだけどさ(笑)。
 
 
 
最後にいくつかあげちゃおうかな?
 
 
1.ニュー・ヨークにおけるハーレムでのスパニッシュとジャズメンの交流の大切さを本文では
結構言及してるんだけど
 
 
その割にはデスカルガ、マンボ、ブーガルーサルサのディスクガイドが少なすぎる。
というか皆無。
 
 
 
2.ニュー・オーリンズにおける「フレンチ・カリビアン」の重要性について書いてるけど、
紹介してるディスクが「マラヴォア」・・・・じゃないと思う。マラヴォア、大好きだけどそうじゃない。
 
 
3.「日本のジャズ」についても言及してるけどさ、この30年くらいで一番僕が重要だと思ってる
「チンドン」「クレツマー」の融合について一つも考察がない。それはもしかしたら当事者が
「ジャズとは考えていない」ということへの配慮だと思いたいです。
 
 
とまぁ面倒くさいことになりましたが
 
 
非常にいい本だとは思いますので、音楽好きにはみんな読んでもらいたいですね。
 
感性じゃなくてちゃんと「整理」したい人には絶対お勧めです。